黒鉛を知ろう
土状黒鉛について
今回は天然黒鉛の中から、土状黒鉛について説明させていただきます。
土状黒鉛は結晶構造を持っています
土状黒鉛は鱗片状黒鉛と比較して肉眼・一般的な顕微鏡観察において結晶が確認できないという特徴があります。
このため土状黒鉛は歴史的に「非晶質黒鉛(Amorphous Graphite)」と呼ばれています。
しかし、土状黒鉛に結晶構造がないわけではなく、ごく小さな結晶構造を持っており、「微結晶黒鉛(Microcrystal Graphite)」や「陰微晶質黒鉛(Cryptocrystalline Graphite)」とも呼ばれています。
下図は粉末状の土状黒鉛を電子顕微鏡で観察したものになります。
結晶構造の違いによる外観の違い
さて、土状黒鉛の「ごく小さな結晶構造」といわれても、黒鉛自体が馴染みがないため想像がつきにくい方も多いかと思います。
そこで一般的な鉱物に例えると「鱗状黒鉛と土状黒鉛」の関係は「水晶とチャート」の関係と似ています。
鱗状・鱗片状黒鉛に対して水晶、土状黒鉛に対してチャートといった具合です(下表参照)。
炭素(C) | シリカ(SiO2) | 結晶サイズ | |
大きい結晶構造 (長距離秩序) | 鱗状・鱗片状 スリランカ | 水晶 岐阜県萩原町 | 肉眼や標準的な顕微鏡で観察できるサイズの結晶で構成 |
微細な結晶構造 (短距離秩序) | 土状黒鉛 中国内モンゴル自治区 | チャート 新潟県西頸城郡 | 肉眼や標準的な顕微鏡で観察しても個々の結晶が確認できない |
土状黒鉛が微結晶である理由
土状黒鉛は植物の炭素成分が出発原料といわれています。
土状が結晶構造を発達させられない理由は、石炭の段階で結晶化に必要な前秩序(まだ一部に乱れがあるものの、ある程度の並びが見られる状態)が極めて少ないためです。
これにより、変成が進んでも炭素原子が整然とした配列に並びにくく、長距離秩序を持つ構造にはならないのです。そのため、土状黒鉛は結晶的な層構造を持たず、微結晶的な構造にとどまると考えられます。
石炭化と黒鉛化について
土状黒鉛は無定形で、一見すると瀝青炭や無煙炭の塊のように見えます。
しかし、黒鉛の密度は無煙炭よりも高く(無煙炭の約1.7g/cm3に対して、土状黒鉛は約2.2g/cm3)、柔らかく、滑りやすい性質を持っています。また、条痕色も違うことから両者は明らかに異なります。
この違いは黒鉛化(石炭成分の黒鉛化)が影響していると考えられます。
植物中の炭素成分は地殻変動による強い圧縮応力や温度の影響によって、褐炭から瀝青炭を経て無煙炭に変化します(石炭化)。
その後、石炭層にマグマが貫入することで、より高いエネルギーが加わることで土状黒鉛に変化します(黒鉛化)。
例えばメキシコのソノラ州では黒鉛鉱脈と石炭鉱脈は近い場所に存在します。これは石炭層にマグマが貫入(ダイク)して黒鉛化したためと考えられています。
また、三井山野炭鉱(みついやまのたんこう)から産出されていた無煙炭の中で「オコリ」と呼ばれていた等級は黒鉛質の粉が付着していたようです。
蛇足
マンガの世界において、ある人物が石炭を握ってダイヤモンドにしたという話があるようですが、少し加減をして握ってもらうと土状黒鉛になります。
アイキャッチ画像
今回のアイキャッチ画像は、中国内モンゴル自治区の土状黒鉛です。